
大切な人を亡くしたとき、「何かしてあげたい」という気持ちは自然なことだと思います。
写経は、そんなときにできることのひとつです。特別な資格も、深い仏教の知識も必要ありません。ただ、故人を思いながら一文字ずつ書き写す。それだけで、供養になります。
この記事では、供養としての写経の意味と、願文の書き方・納め方を解説します。
- 写経が供養になる理由
- 願文(故人への思いの書き方)の具体的な例文
- 戒名・俗名どちらを書けばいいか
- 書き終えた写経の納め方
- 自宅で始めるための道具
写経が供養になる理由
仏教における写経の功徳
仏教では、経典の一文字一文字が仏様そのものであると考えられています。その文字を心を込めて書き写すことで功徳(くどく)が積まれ、その功徳を亡くなった方に回し向ける(回向する)ことで供養になる、というのが写経供養の考え方です。
これは特定の宗派に限った考え方ではなく、写経は多くの宗派で供養の手段として古くから行われてきました。
「本当に届くのか」という気持ちについて
「写経を書いても、本当に届くのだろうか」と思う方もいると思います。正直なところ、それは誰にも確かめることができません。
写経を続けている方の中には「書いている間、あの人のことだけを考えられる時間ができた」と感じている方もいます。故人のことを思い、静かに筆を動かす時間そのものが、悲しみの中にある心を少し落ち着かせてくれる。そういう意味でも、写経は供養になると私は思っています。
供養のための写経・願文の書き方
「右為(みぎため)」とは
写経用紙には、経文の後に「願文(がんもん)」を書く欄があります。供養の写経では、この欄に故人への思いを記します。
書き方は、経文の最後から1行あけて、行頭に「為(ため)」または「右為(みぎため)」と書き、その後に願文を続けます。「右為」は「右に書いたお経は〇〇のために書きました」という意味の漢文表現です。
故人の名前の書き方
戒名(浄土真宗では「法名」、日蓮宗では「法号」とも呼ばれます)がある場合はそれを、ない場合は俗名(生前の名前)を書いて問題ありません。戒名がわからない場合は「〇〇家先祖代々」とまとめて書く方法もあります。
名前の後には「霊位(れいい)」と添えるのが一般的です。「〇〇居士 霊位」「〇〇家先祖代々霊位」のような形です。何も添えなくても問題ありません。
願文の例文
まとめると例として以下を参考にしてください。宗派や用紙の書式によって順番が異なる場合があります。
| 用途 | 願文の例 | 読み方 |
|---|---|---|
| 特定の故人の供養 | 〇〇(戒名または俗名)霊位 追善供養 | ついぜんくよう |
| 特定の故人の供養 | 〇〇霊位 追善仏果菩提 | ついぜんぶっかぼだい |
| 先祖全般の供養 | 〇〇家先祖代々霊位 追善供養 | — |
| ペットの供養 | 〇〇(ペットの名前) 供養 | — |
| 特定の人でなく広く供養したい | 南無過去精霊 | なむかこしょうりょう |
難しく考える必要はありません。「〇〇のために書きました」という気持ちが伝わる言葉であれば、それで十分です。
願文は書かなくてもいい
願文は必須ではありません。「ただ故人を思いながら書く」というだけでも、供養になります。書くことに気持ちが向かないときは、無理に書かなくていいと思っています。
書き終えた写経をどうするか

お寺に納経する
最も一般的な方法です。写経を受け付けているお寺に持参し、納経します。お寺によって受け付け方法が異なるので、事前に確認してから訪問してください。直接行けない場合は、郵送で受け付けているお寺もあります。
納経したお寺でまとめて供養・保管されます。
仏壇に供える
自宅に仏壇がある場合は、書き終えた写経を仏壇に供えることもできます。定期的に書いたものをまとめて、法事のときにお寺に納めるという方もいます。
棺に入れる・納骨に添える
納棺前であれば、書いた写経を棺の中に入れて一緒に火葬することができます。納骨の際に添える方もいます。葬儀社やお寺に事前に確認してみてください。
自宅で始めるための道具
写経は自宅でも始められます。必要なのは、写経用紙と筆ペンだけ。お手本が薄く印刷されたなぞり書き用紙があれば、習字の経験がない方でもすぐに書き始められます。
道具の選び方については以下の記事を参考にしてください。
よくある質問
宗派が違っても供養になりますか?
般若心経はさまざまな宗派で読まれているお経で、宗派を問わず広く写経に使われています。故人の宗派と自分の宗派が異なる場合でも、供養の気持ちを込めて写経することはできます。
ただし、宗派によって写経するお経や考え方が異なります。浄土真宗では般若心経ではなく『正信偈(しょうしんげ)』や『阿弥陀経』、日蓮宗では『法華経』が写経されます。また、浄土真宗では「臨終即往生」という考え方から、他宗のような追善供養の概念がなく、亡き人への法要は「故人を偲びながら自分が仏法に出会う機会」と位置付けられています。気になる方は菩提寺(ご先祖から代々ゆかりのあるお寺)に相談してみてください。
字が下手でも供養になりますか?
なります。写経は字の上手下手を競うものではありません。一文字一文字を丁寧に、心を込めて書くことが大切です。なぞり書き用紙を使えば、書道の経験がない方でも書き進められます。
何枚書けばいいですか?
決まりはありません。1枚でも供養になります。続けることに意味があると思っているので、無理なく続けられる枚数から始めてみてください。
ペットの供養にも使えますか?
使えます。願文に「〇〇(ペットの名前)霊位 供養」と書くことで、ペットへの供養として写経を捧げることができます。受け付けているお寺も多いので、納経先のお寺に確認してみてください。
まとめ
写経は、大切な人を思いながら一文字ずつ書き写す時間です。難しい作法も、特別な資格も必要ありません。
願文に故人の名前と「供養」の言葉を添えて、書き終えたらお寺に納める。それだけのことですが、その時間が、悲しみの中にいる心をほんの少し、静かにしてくれることがあります。
もし「やってみようか」と思ったら、道具を揃えるところから始めてみてください。